穀物が実る広大な原野
巧みな技術で作る木の碗
メンパ族の「メンパ(門巴)」とは〝モンの人〟を意味し、彼らはかつて、チベット自治区門隅(モンユル)地区に居住する民族であった。
農耕生活が主で、小麦や米など穀物のほか、「オニノヤガラ」や「コウキ」といった漢方材料の栽培も盛んだ。
また、森林資源が豊富な山地に住む彼らは、碗やスプーンなど、木製食器の製作が巧みな民族としても知られ、桐やクワの木を材料にして作った碗は、形が変わりにくく丈夫で、色褪せない美しい工芸品の1つとされている。
中でも門隅地区は〝木碗之郷〟の別名を持つ。
また、彼らの木製食器にまつわる、次のような言い伝えがある。
1. 女性は「プル」と呼ばれる赤色の長衣を身に纏うのが一般的
2. 伝統工芸品の木碗。杢(もく)が入った木の瘤の部分を材料に使うことが多い
3. 彼らの代表的な食糧の1つ「鶏爪穀」。穂が鶏の爪に似ていることから、こう呼ばれる
「かつて、チベットに住む民たちは土の碗を使っていた。
ある日、メンパ族の木こりが山で木を切って、食事をしていた時、不注意にも持っていた土の碗を壊してしまった。
焦った木こりは咄嗟に木で碗を作ることを閃き、切った木を削ったり彫ったりして、碗を作った。
その後、木で作った碗が軽くて壊れにくいことが、メンパ族の村中に広がり、やがては木の勺や箸も登場し、彼らの生活に欠かせないものとなった」
木の選別や成形、研磨など、完成まで少なくとも4つ以上の工程を経て作る同工芸品は、ハダカムギを使って作る主食の「糌粑(ツァンパ)」用の皿や、バターで作った「酥油茶(ジャ)」用の杯など、用途も様々。
毎年旧暦6月になると、収穫を願う新年祭「曲科節」が催され、そこで出される料理には、必ずこの木製食器が使われる。
自然豊かなこの地で、心地良い木の香りが漂う食器を手に取り、古より続く伝統の風合いをしっかりと味わいたい。
~北京ジャピオン2012年10月22日号