人肉マントウを売る女 武松も認めたその豪胆さ
孫二娘は、夫とともに居酒屋を営んでいた。
しかし、ただの居酒屋ではない。
客として来店した旅人を殺して金品を奪い、遺体をマントウの餡にするという、恐ろしい店だったのだ。
そして孫二娘は、持ち前の美貌と、追いはぎ強盗であった父から受け継いだ武芸や怪力で、次々と客を襲っていた。
そんな彼女は、残虐な鬼神・夜叉にちなみ、「母夜叉」と呼ばれる。
ある日、虎退治で有名になった武松が店にやって来た。
孫二娘はそうと知らず、注文された肉マントウと酒を用意。
一口食べた武松が、「これは人間の肉か犬の肉か」と問うと、孫二娘は慌てることなく、「人や犬の肉は食べさせません。牛の肉です」と答えた。
しかし、武松をもマントウにしてやろうと機を窺い、最後にしびれ薬を盛るのだった。
孫二娘が倒れた武松を持ち上げようとすると、彼は突然動き出し、孫二娘を押し倒して馬乗りになった。
最初から彼女を怪しんでいた武松は、酒は飲まず、目を回したふりをしていたのだ。
孫二娘は諦め、降参すると、その後は武松を何度も手助けし、武松もそんな孫二娘を頼もしく思い、彼女に入山を勧めた。
そして、梁山泊で彼女は夫・張青と、諜報機関として機能する料理店を経営するほか、軍人としても華々しい活躍を見せていく。
孫二娘が居酒屋を経営していた孟州市。
河南省の北西部に位置し、市の北部を黄河が流れる。
唐代の詩人・韓愈の故郷として知られ、韓園や黄河湿地など、数多くの観光地を有する。
「母夜叉」と恐れられた孫二娘の心は今でもまだ、母なる河、黄河に眠っているのだろうか。
~北京ジャピオン2013年2月25日号